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読書の日々(アーサー・C・クラーク 『海底牧場』) [読書]

 21世紀のオーストラリアのヘロン島を舞台に、ウォルター・フランクリンという世界連邦・牧鯨局の職員を主人公にしたアーサー・C・クラークの海洋SF。練習生~監視員~官僚時代の3部構成で大体20年くらいのお話になる。海洋SFとはいうものの、主人公は公務員であるため、その日常は冒険というより公務員としての仕事に従事している。描写されているのは、ウォルター・フランクリンといいう主人公の行動と内面の変化であり、話自体に引き込まれるようなグイグイとしたものはない。
 対して、良く描けていると俺が思うのは「牧鯨局」というガジェットである。この物語では、鯨が完全に人の手で管理されていて、超音波と電気の見えない柵により広大な「海の牧場」で生産される貴重な蛋白源として世界中の人間の食事を賄っている。そこでは、主人公のウォルターは牧場のカウボーイの如く、ホエールボーイとして勤務していて、あらゆる鯨がダイオウイカや鯱の群れなどから襲われるのを守る、という仕事をしている。地球上でもっとも大きい哺乳類は間違いなく鯨類なのであり、これがきちんと管理されれば食糧不足の問題も簡単に解決できるというのは合理的な考えである。
 翻って現代に話を戻せば、妥協点を見出すために作られた本来捕鯨国のためであったはずのIWCの協定は一部の鯨ファンによって極端に妨害されているという情けない現状である。大体ここまでデカイ生き物が管理できないのであれば、もっと小さい水産資源は管理できないわけであるので、科学的かつ客観的な考え方で鯨類を管理する方向に向かってほしいと俺は思う。
 さて、最終的に主人公のウォルターは、マハ・テーロという仏教家と出会い、鯨を食糧として管理するのではなく、鯨乳を搾乳し、鯨類の個体を保護すると言う立場に向かうことになる。テーロ曰く、人類が宇宙に出た場合には人類はより知的な宇宙人に出会うだろう。その際、人類が虫けらのように見られた場合にどのような運命が待っているのかと諭される。
やがて、その時が来たら、人間がより高等な生物から受ける待遇は、おそらく、人間が自分の世界の他の生物に対して、どのように振舞ってきたかによって定まるのかもしれません
これにビビッときたウォルターは改心してしまうんだよなー、フィクションだから何が起きても不思議ではないけれど。日本人の俺からすれば、森羅万象に畏敬の念を抱くのは、あくまでも「モノ」としての大切さを重要視していこうという島国ならではの考え方で、絶対者という西洋的な視点はシックリこないからだろう。
 物語自体はロマンスあり、サスペンスありの訓練生時代が一番面白く、流石にオーストラリアにヴァカンスにはいけないが、今年も海の潮臭さを満喫したいなぁと心から思ったのである。

海底牧場 (ハヤカワ文庫SF)

海底牧場 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: アーサー・C. クラーク
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2006/09
  • メディア: 文庫



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