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読書の日々 (平松洋子 『買えない味』) [読書]

 外食産業やコンビニの飯は基本的に美味くないと思う。安い値段のものは特にそうで、料理をする人間の腕の問題とは異なる部分、特に材料費を抑えていたり、調理時間の工程を減らしているためなんだろう。
 スローフード・スローライフという言葉と似ているのだろうが、平松洋子の『買えない味』は、当たり前の食卓について考えさせてくれる名エッセイである。まぁ、幸田文が食いしん坊だったら、こんな静謐で素朴で力強く「食い物」について書くのかもしれない。例えば、「風 肉、魚、野菜、果物を干す」というエッセイは八代亜紀のあの歌を引用しつつ、以下のようにある。
 焙ったイカも、蛍烏賊を乾かしたのも、どちらも風のお世話になっております。干して、乾いて、水分の抜けたぶん、ぜんたいがぎゅうと凝縮している。噛めば噛むほど真の味が湧き出るので、噛んでもまた噛んでも、さらにその次を噛みしめる気になる。
 なんとま、座持ちのよいこと。風は大立役者なのである。
引用:「買えない味」(平松洋子、85p)

 これを読んで、無性に干し野菜が作りたくなった。スーパーで生椎茸を買ってきてベランダに干す。天気のいい日が2日もあれば、売り物の干し椎茸と変わらないものができるだろう。水で戻した出汁を水餃子のスープに使い、みじん切に刻んで餃子の餡に混ぜてみた。普通に美味かった。
『買えない味』が教えてくれたのは、食器から調理器具、材料・調理にいたるまで「食卓」にかける時間と手間の「当たり前」の大事さだったと俺は思う。
 

買えない味 (ちくま文庫)

買えない味 (ちくま文庫)

  • 作者: 平松 洋子
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2010/12/10
  • メディア: 文庫



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